2023年度多層言語環境研究シンポジウムにおける、パネル・ディスカッションの要旨です。発表者が複数になりますので、個人発表の要旨とは別に提示します。
題目:『グループワーク×英語授業―やる気が伝染する学習活動のデザイン』
コーディネーター:廣森友人(明治大学)
パネリスト:
三ツ木真実(小樽商科大学)
吉村征洋(龍谷大学)
桐村亮(立命館大学)
田中美津子(大阪公立大学)
趣旨説明 (廣森友人)
近年の英語授業では一貫してコミュニケーション活動の充実が目指され,タスクを用いた指導や,生徒が主体となり互いに学び合う協同学習などが取り入れられている。結果として,授業にはこれまで以上にペアやグループでの活動が増えている。この傾向は言語習得の観点から見れば望ましいものだが,一方でコミュニケーション中心の授業に対して否定的な感情や不安を持つ生徒がいることも事実である。だとすれば,「うまくいかないペア/グループにはどのような問題が生じているのか」,「高い成果を上げるペア/グループにはどのような特徴があるのか」,「ペア/グループ活動をいかに実り多いものにするのか」といったことを理論と実践の両面から検討することは,より効果的な指導実践に寄与すると同時に,動機づけ研究のさらなる発展・深化にもつながるものと考えられる。本パネルディスカッションでは,学習者が相互にやる気を高め合いつつ,グループワークに主体的に取り組むために必要な学習活動のデザインについて,リーダーシップ,協同学習、グループ分け,自己・集団効力感といったキーワードを通じて議論を行う。
注: なお,本パネルディスカッションにおける各研究は,JSPS科研費(B) [20H01290]の助成を受けたものである。
パネル1 (三ツ木真実)
より良いグループワークを生み出すリーダーシップの検討:創発リーダーと指名リーダーの比較に基づく考察
本発表では,どのようなリーダーの存在が英語によるグループワークの活性化や活動へのやる気を高めることにつながるかという観点から,2つの異なるリーダーシップのスタイルに焦点を当てて比較・検討を行う。比較するリーダーシップの種類は,リーダーが自然発生する創発リーダー(Emergent Leader: EL)と,教師から事前にリーダーの役割を与えられた指名リーダー(Assigned Leader: AL)の2つである。それぞれのリーダーがいるグループにライティング課題に取り組んでもらい,活動中の発言や振る舞い,質問紙,ライティングの点数をデータとして収集・分析し,グループワークのダイナミクス,動機づけ,ライティングの質の3つの側面から評価して分析を行った。その結果,グループワークの活性化に貢献する行動はALのいるグループでより頻繁に観察された。また,動機づけはELのいるグループでは徐々に上昇したが,ALがいるグループでは早期にピークに達し,高い水準を維持した。この結果から,明確な役割を持つリーダーを事前に指名して配置することで,グループワークの活性化と動機づけの早期の高まりを促進できる可能性が示唆された。
パネル2 (吉村征洋)
協同学習によるグループワークが学習者のエンゲージメントに与える影響について
本発表では,協同学習理論に基づいたグループワークが学習者のエンゲージメントに与える影響について検証する。Johnson and Johnson(2018)によれば,協同学習を効果的に進めるためには,単に学習者をグループで学習させるだけでなく,「積極的相互依存」,「個々の責任」,「促進的相互作用」,「社会的スキル」,「グループの改善手続き」という5つの基本的構成要素を取り入れたグループワークの実施が重要である。協同学習理論を取り入れたグループワークは,言語面・認知面・情意面において,学習者に良い影響を及ぼすことが報告されている(Dörnyei & Murphey, 2003; McCafferty et al., 2006; Yoshimura et al., 2021)が,学習者のエンゲージメントに与える影響については,これまであまり検証されていない。本発表では,情意面(アンケート調査),認知面(Language-Related Episodes),行動面(グループワークにおける発話数・ターン数)において,協同学習によるグループワークが学習者のエンゲージメントに及ぼす影響について考察する。
パネル3 (桐村亮)
グループワークにおけるグループ分けの影響
グループワーク実施の際,メンバーをどのように決めるかは,必ず行う選択の一つである。本発表では,一学期間のリーディング授業でのグループワークを例として,メンバーをずっと固定するか,毎回変えるかによって,学習意欲や成果にどのような影響があるかについて議論する。大学1回生の英語リーディング科目において,メンバー固定クラスと組み替えクラスに分け,毎週一本の英文記事について,「事前に各自で予習」「授業中にグループで内容確認」「最後に内容理解テスト受験」のタスクを10週間にわたって行った。期間中3回の質問紙調査でモチベーション等の変化を測定するとともに,予習にかけた時間とテスト結果を分析対象に含め,両クラスを比較した。結果からは,毎回新鮮な顔ぶれでグループワークに取り組むことと,慣れた仲間と取り組むことは,それぞれ長所と短所があり,タスクの期間や目的に合わせて,グループの組み方を調整する重要性が示唆された。
パネル4 (田中美津子)
グループワーク環境と動機づけ,自己・集団効力感
グループワーク環境が学習者の動機づけに影響を及ぼすことは報告されているが,自己効力感や集団効力感にどの程度影響を及ぼすのかについてはあまり検証されてはいない。そこで,本発表では,グループワーク環境と,動機づけ,自己効力感,集団効力感の関係を検証する。英語の授業で同じメンバーと一学期間グループワークに取り組んだ大学生を対象に質問紙調査を行った。パス解析の結果,グループワーク環境は学習者の動機づけ,自己効力感,集団効力感に差をもたらすことが明らかになった。具体的には,グループの結束が強く,メンバーのエンゲージメントが高いグループの学習者ほど,強く動機づけられ,自己効力感や集団効力感も高い傾向が見られたが,グループの結束が弱く,メンバーのエンゲージメントが低いグループの学習者には,逆の傾向が見られた。結論として,グループワーク環境は動機づけのみならず,自分はできる,集団でできるという自信,有能感を育む上でも重要であることが示唆された。