2023年11月4・5日に、北海道大学クラーク会館で多層言語環境研究シンポジウムを開催します。
発表時間は研究発表・実践報告が20分(質疑応答5分)、パネル・ディスカッション/ワークショップなどは総時間60分~90分(応相談)を予定しています。
発表予定者は、10月6日までに発表要旨を次のコメント欄にご記入ください。400字~800字とさせていただきます。(ご面倒ですが、コメントが並んだ一番下までスクロールしてください。コメント記入欄が出てきます。なお、ウェブサイト管理者の承認後に公開になりますので、すぐに確認できません。しばらくして公開になっていないようでしたら、ykawai@imc.hokudai.ac.jpまでお問い合わせください。)
要旨フォーマット
氏名:〇山△男 所属:××大学(院生の場合はカッコ書きで院生)
題目:〇〇〇〇における◇◇◇◇の△△△△的考察
要旨:400字から800字でまとめてください。
氏名:杉江聡子
所属:札幌国際大学
題目:生成AIを活用した外国語教育で「何を」「どのように」教えるか
要旨:2022年11月のChatGPT3.5が登場して以来、生成AIは目覚ましい進化を遂げている。社会のパラダイムシフトが進み、産業や事業をはじめ「〇〇DX」が叫ばれる中、教育は依然として「測定可能な知識とスキルの修得を評価する」ことを目標にしている。知識の量と正確さ、計算処理の速さ、ルールに沿ったスキル運用の整合性等において、AIは既に人間を凌駕している。教育や学習は、「AI対ヒト」という二元論的な構図ではなく、AIを教学のアクターとして位置づけ、「AIとヒトのチーム」でパフォーマンスを最大化する「拡張知能」(ホルムス他, 2020)としての発展可能性を追求すべきであろう。本発表では、AIとヒトの強い点、弱い点、補完すべき点を整理し、外国語教育において「何を」教えることができるのか、また、生成AIを活用することで、従来の授業デザインに即して「どのように」教えることができるようになるのかを探究する。カリキュラムの反転モデルに基づき、初修中国語を例として具体的に検討する。授業で使えるプロンプトや、学習者の自律学習に役立つタスクについても提案する。
Name: Chui Ling Tam Affiliation: Hokkaido University (graduate student)
Title: A Bibliometric Analysis of Chatbots in Language Education
Abstract:
The aim of this study is to provide a comprehensive overview of the current state of research on chatbots in the field of language education. Using the keywords “chatbot” combined with “language education”, “second language acquisition”, “language teaching”, “computer-assisted language learning”, “language learning” and “language pedagogy”, a total of 68 relevant publications were retrieved from Web of Science on August 7, 2023, from the years 2006 to 2023. Articles accounted for 86.8% of the retrieved publications. A bibliometric analysis was performed using VOSviewer together with Web of Science’s built-in features, including the number of publications over time, the most cited countries and authors, and the co-occurrence of keywords. According to the results, 2022 and 2023 were the most productive years in terms of the number of articles published for the relevant topics. They accounted for 54.4% of all publications. China, South Korea, and Taiwan are the three most published and cited countries/regions. Fryer, Luke Kutszik, Kohnke, Lucas, and Zou, Di are the three authors with the most publications and citations. In addition, the keyword co-occurrence analysis reveals seven main research directions of chatbots in language education research, with the main keywords corresponding to each direction, including artificial intelligence, digital learning, conversational agents, learning analytics, dialogflow, CALL, and English writing. ChatGPT, writing, and digital learning are the three keywords among the latest research trends in the field. As a result of this review, researchers will be able to better understand the overall status of chatbots in language education as well as the latest trends in the field as a whole.
氏名:大友瑠璃子
題目:多層言語環境における言語簡略化:簡約日本語を通して見えてくること
要旨:本稿は、多層言語環境で立案・実施される言語政策としての言語簡略化に焦点を当てる。ここ15年ほど間に日本では、「やさしい日本語」に代表される言語簡略化が、多言語話者に対応する言語政策として各所で進められている。本稿は、この「やさしい日本語」ではなく、1990年代に当時の国立国語研究所所長の野元菊雄により考案された日本語体系・日本語学習の方略である「簡約日本語」を取り上げる。新聞や学術雑誌の語彙から成るコーパスを利用して、語彙を2000語に制限したり、学習の対象とする文法項目は活用形に準じて整理したりするなど、当時としては先駆的な試みであったものの、2023年現在、簡約日本語のかつての功績や研究成果は表立っては見ることはほとんどない。
本稿は、この“失敗”の原因はコーパス計画ではなく、Lo Bianco (2004, 2005)の提唱する「ディスコース計画」にあったのではないかという仮説をもとに、簡約日本語の”失敗”を捉え直す試みである。簡約日本語を形作った学術論文15点からコーパスを作成し、コンピューターベースの批判的談話分析の手法で、キーワードを抽出したり、高頻度の言語使用のパターンを明らかにしたりする。また、言語政策の類型を援用してこれらのパターンを整理し、簡約日本語を取り巻くディスコースーたとえば、その背景や理念や価値観―を考察することで、社会的に実装されるためにはどのようなディスコース必要であったのか、そして、簡約日本語はどうしてそれらを醸成することができなかったかを推察する。
氏名:三ツ木真実
所属:小樽商科大学
題目:多層言語環境における学びと学習者の認識:トランスランゲージングと認識の変容に着目して
要旨:本研究では、日本人大学生とポーランド人大学生との間で行われたオンライン国際共修授業に参加した日本人大学生3名を対象に、授業を通じて得られた認識やその変化について調査した。授業では、異なる言語を母語とする学生たちが、それぞれの言語リソースを自由に使用して、自分の意見やアイデアを表現する形で協働でプロジェクト(日本の発明品に改良を加え、ポーランド市場で売り出すための新デザインを協働で考案し最終回でプレゼンテーション)に取り組んだ。多層言語環境での学びとトランスランゲージングが埋め込まれた国際共修から学習者は何を学び、またどのような変化を自己認識するのかを考察することが本研究の目的である。国際共修授業の事前と事後を振り返る形で個人別態度構造分析(PAC分析)(内藤,2002)を実施した。また、それぞれの分析結果を踏まえて3名で相互にディスカッションをしてもらい、認識の変容についてどのような共通点と相違点が見られるかを整理してもらった。結果として、学習者は「言語リソースを増やすことへの意識の高まり」、「トランスランゲージングに対する態度の深まり」、「言語不安の減少」を変容として認識していたことがわかった。また、変容した意識の共通点として、新しいトランスランゲージングの価値観(トランスランゲージングに対する抵抗感の緩和)を得ていたことも明らかとなった。
本発表は、ある大学で行った「再話(retelling)」を取り入れた授業実践について報告するものである。「再話」とは、「ストーリーを読んだ後に原稿を見ない状態でそのストーリーの内容を知らない人に語る活動」(卯城ほか, 2009)と定義され、テキストを読んで処理をするモードだけではなく、処理した情報を整理して産出するモードの活動を含むダイナミックな活動である。
テキストの処理はいくつかの異なるレベルを経るが、最終的には読み手の個人的な知識や経験を反映した「状況モデル」の生成が行われる(Kintsch, 1994)。また、言語産出の方のプロセスに目を向けると、第二言語産出の際も言語化前のメッセージを生成する「概念化部門」は母語と第二言語で共通の記憶に支えられている(Kormos, 2006)。筆記再生や口頭再生の際に用いる再生言語の影響を調べた研究では、第二言語で書かれたテキストであっても、母語で再生をした方が第二言語でよりも再生率が高いことがわかっているが(Lee, 1986; 渡辺, 1998など)、これは、処理モードの「状況モデル」作成も産出モードの「概念化部門」も、母語による既知知識の強い影響を受けているためであると考えられる。そこで、本実践ではテキストの読みの時間に、母語やその他自分が使いやすい言語の使用を積極的に認めた。具体的には、再話の手順は小河原・木谷(2020)に倣い、テキスト内容のメモをする際に、日本語、母語、その他の言語、また図式やイラストなど、あらゆる手段でのメモも奨励し、そのメモを見ながら再話をするという試みを行なった。
本実践はコロナ禍の影響を受け、同内容の実践を異なる学期に異なる形態(オンライン、対面)で行ったため、それぞれの実践の詳細と、学期末アンケートから見えてきたオンラインと対面での評価の比較を中心に発表する。
氏名:片岡恋惟、譚 翠玲
所属:北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 博士課程
題目:第二言語習得研究における決定木分析の適用可能性に関する予備的検証
−教師の授業不安および学習者のグループ・メタ認知スキルを例に−
要旨:これまで第二言語習得研究においては、学習者や学習成果に影響を与える要因について多くの知見が蓄積されてきた。例えば、不安や自信といった教師の情動反応は意思決定を通じて、教授方法の選択など授業実践に影響を与える。そうした情動反応はさらに、性別、経験年数などにより異なることが知られており、実用的な授業改善や教員支援のためには、教師の属性により情動反応がどのように変化するのかについて明らかにする必要がある。他方、協働学習において学習活動を効率的に進め、深い学びを促すものとしてグループ・認知スキルが注目されている。学習期間、動機づけ、性別などは、グループ・メタ認知スキルに影響を与え、協働学習の成否を左右する要因とされている。学習者の属性によりグループ・メタ認知スキルがどのように異なるのかについて明らかにすることで、より効果的な協働学習のあり方について示唆を得ることができる。以上のように、従来の研究は影響要因を特定するものであり、それらの要因が互いにどのように影響し合っているのかについては明らかにされていない。学習とは、様々な要因が複合的に影響し合った結果であり、要因同士の関係性や構造を捉えるための手段が必要である。本研究ではその手段として決定木分析を採用する。決定木分析とは、統計検定に基づき、ある目的の事柄に影響を与える直接観測することのできない要因を特定したり、要因同士の関係性やパターンを把握するための解析法である。とりわけ日本の第二言語習得研究においては、決定木分析を用いた研究は非常に限定的である。本研究では、決定木分析を用いて、教師の属性が授業不安に及ぼす影響および学習者の属性がグループ・メタ認知スキルに及ぼす影響について検討する。これにより、決定木分析の第二言語習得研究における適用可能性について検証し、第二言語習得研究におけるより実践的な研究知見の提供を試みる。
氏名:李鳳
所属:北海商科大学
題目:「(さ)せていただく」に関する日韓対照-ヘッジとしての機能を手掛かりとして-
要旨: 日本語の「(さ)せていただく」は、本来、相手に許可を求め、ある行為を相手に遠慮しながら行う表現として知られている。ところが、近年は「サウナで整わせていただきました」、「北海道を旅行させていただきました」のように恩恵や許しを得てそうするとはまったく捉えられない場合にまでその用法が広がっている。「(さ)せていただく」の拡張的な用法とその使用に関しては、日本語母語話者の中でも賛否両論があるが、現に「~(さ)せていただく」はワンフレーズとして考えてよく、日本社会の変化、人間関係における距離感の変化、日本語の敬語の変化の決着点におかれ、他人と社会的距離を保ちたいと思う現代日本人のコミュニケーションへの思考の筋道が反映されている表現として評されている(椎名2021、椎名2022)。一方、「(さ)せていただく」を韓国語に直訳すると「~시켜서 받다(sikyoseo patta)」となるが、これは韓国語母語話者にとっては奇妙で理解し難いフレーズになってしまう。また、김용각(2017)では、「(さ)せていただく」を韓国語で翻訳する場合、「하다(hata:する)」が意味的に最も近いと指摘されている。
これまで「(さ)せていただく」は、日韓対照研究においてあまり注目されず、韓国人日本語学習者にとって単に習得しにくい表現として取り扱われてきており、研究の対象にならなかった。本発表では「(さ)せていただく」が発話行為に対して限られた確信やコミットメントを示すヘッジ(hedge)としての機能していることを手掛かりとし、韓国語と対照を行い、日本と韓国のポライトの相違について考察する。
名前:渡辺幸倫 相模女子大学/北海道大学(院生)
題目:観光案内所でのコミュニケーション調査:データ収集の模索と分析の視点について
本研究では、観光の現場での言語使用、コミュニケーションの様相を、道内の観光案内所のカウンターを事例として取り上げ、観察と録音、および簡易なインタビューによって調査、考察する。
具体的には、予備調査(2023年8/5,8,9)、本調査(8/17~19)と、それぞれ半日程度カウンター付近に常駐し観察、さらに来所した外国人利用者に録音協力を依頼し、許可を得た者についてはカウンターでのコミュニケーションの様子を録音した。結果的に、本調査の期間中に合計39件の利用者の観察、うち9件の録音を行った。これらの利用案件を①利用者の来所目的の分類、②コミュニケーションの流れのモデル化、③使用言語の様相の描写、④非言語方策の利用方法となどの点から分析した。
詳細は発表時に譲るが、来所者の目的は特定情報の収集(「OO行きバス停はどこですか?」)だけでなく、緩やかな情報収集(「半日あるけどどこか良いところはありませんか?」)や地元の人との交流(「こないだヨーロッパを旅行した時の写真見てくれる?」)を求めるようなものも認められた。また、大まかなコミュニケーションの流れとしては、言語の特定、質問の把握、資料の提供、記入しながら説明、理解の確認(必要に応じて再説明や次の質問へ)、見送りの声掛けであった。外国系利用者による使用言語は、案内所側の対応言語である、英語、日本語、中国語の順で多かったが、複数の言語が混用されることも多かった。なお使用されている英語はかなり平易な表現であることもわかった。また、非言語のコミュニケーション方策として、ほぼすべてのコミュニケーションで地図、時刻表、パンフレットなどが提供され、理解の促進と確認に役立てられていた。
今後は本調査で明らかになったことを、観光現場で働くことを希望する者への英語教育・訓練に活かせる方法を考えていきたい。
名前:新海茜
所属:北海道大学国際広報メディア観光学院 (博士院生)
題目:国際リゾート化がもたらす言語変容 ー北海道ニセコエリアの事例ー
本発表では、地域の国際観光リゾート化が住民の言語に対する認識に及ぼす影響について、北海道ニセコエリアを事例として報告する。
冬季における外国人住民の割合が10%を超えるニセコエリアでは、観光用の商業看板や接遇の際の言語選択として英語が志向される傾向が強い。この件に関して、山川(2011)は、ニセコ観光の中心地であるニセコひらふ地区周辺の商業看板の約半数は英語併記されていることを明らかにした。また、高橋(2020)は、口頭のコミュニケーションにおいても、ニセコの観光現場では英語が事実上の「公用語」として機能していると述べた。
このように「英語化」が進むニセコエリアにおいて、観光現場で働く日本人/外国人スタッフ(日本人6名、外国人6名:N=12)が英語中心的な言語状況をどのように受け止めているのか(本発表では「英語受容意識」と定義する)について、筆者はインタビュー調査を行った。その結果、ニセコ滞在歴が1年未満の者は、英語中心的な言語状況に肯定的な発言をする傾向にあった。彼らの中には、ニセコが「英語圏」である「おかげで」英語学習のモチベーションが向上したと述べた者もいた。一方で、長期定住者は、英語中心的な言語状況に対して批判的な言動をする傾向にあった。彼らの批判の中心は、英語運用能力を求められる状況それ自体ではなく、過度な「英語化」によって既存の日本人住民が地元の観光現場に参入できていない点にあった。日本人/外国人という変数は、英語受容意識を左右する主要な規定要因にならない可能性が示された。
名前:黄愛玲
所属:国立高雄科技大学外語学院応用日語系
題目:国際交流アンケートから台日意識差異を見る ー語彙共起ネットワーク分析を中心にー
要旨:
コロナ禍によってオンライン国際交流プログラムは急速に普及し、国境を越えた意識差が次第に縮小していると考えられるが、はたして本当にそうであろうか。
本研究は語彙共起ネットワーク分析を用い、日台学生の意識差異を探り、両者間のより良い交流コミュニケーションを促せることを目的としている。データは2021年と2022年それぞれの年に2回ずつ実施したオンライン国際交流プログラムで実施したアンケートを用いた。
アンケート調査の中で自由回答形式の項目で書かれた、台湾と日本の学生による感想や意識について自由回答の部分をデータとした。収集されたデータは、KHcodeを用いて語彙共起ネットワークを生成させ、言語的差異や共通性等について考察を試みた。具体的には、日台学生のコア使用語彙や語彙共起の関連性がどのようになっているのかについて考察し、日台学生の意識差異の分析を試みた。
研究結果から、台湾と日本の学生の間には意識に関する明らかな差異が見られた。ネット社会で差異が縮まったと考えられがちな意識差異は、意外にもこれまで言われてきた日台の固定概念に囚われている部分が見られ、興味深い結果が見られた。
本研究の結果は、国際交流プログラムの品質向上と異なる文化を尊重した日台学生のより良いコミュニケーション促進にいくらか役立つかと考える。
氏名:葛西洋三
所属:靜宜大學
題目:国際ボランツーリズムを活用した地方創生 -「小樽雪明りの路」の取り組みと台湾人ボランツーリスト ―
要旨:日本は少子高齢化に伴って、都市への人口集中、地方の過疎化が進行している。こうした状況を踏まえて、観光庁では「観光による地方創生」を推進しており、2013年には観光地域づくり推進のためのDMOの形成を支援する施策がスタートしている。北海道小樽市では毎冬「小樽雪明りの路」という観光イベントが開催されている。このイベントは20年以上の歴史を持ち、イベントの準備と運営は数多くのボランティアによって担われている。その中には韓国や台湾から訪れて、当イベントにボランティアとして参加するツーリストも含まれている。
ボランツーリズム(ボランティア・ツーリズム)に関する研究は西欧諸国を中心としてその成果が蓄積されてきたが、発展途上国を着地とした「開発援助」的な活動に焦点を当てたものがほとんどであり、先進国を着地として、地方創生というコンテキストにおいてボランツーリズムに焦点をあてた研究は見られない。また、日本国内においては、発展途上国へのアウトバウンドとしてのボランツーリズムや、ドメスティックなボランツーリズムに焦点を当てた先行研究はみられるが、インバウンドのボランツーリズムに関する研究は全く十分ではない。
本研究では、「小樽雪明りの路」を国際ボランティアの観光地域創生への参与の事例として注目し、台湾からボランツーリストを受け入れる上での運営上の役割や機能、課題について考察することで、「観光による地方創生」における国際ボランツーリストの可能性について明らかにしたい。
氏名:サヴィヌィフ・アンナ
所属:北海道大学
題目:英語でのCLIL「science」教材の課題文の分析から見るCLIL理論の実施
要旨:本発表では、「CLIL」と書かれている教材がどれぐらいCLILの要素を取り入れているかという課題をたて、「CLIL」表示がある教科書の分析結果を報告する。
CLIL(内容言語統合型学習)は1990年代後半からヨーロッパを中心に普及してきて2010年代から日本でも広がってきた。Dulton-Puffer et al.(2022)によると、現在CLILは主に英語を教える「コンテクスト」と理論に基づく「教育アプローチ」という二つの顔を持っている。ただし、現場で英語学習のために使われている「CLIL」表示がつく教材の数が増えている中、その教材がどれぐらいCLILの理論に合っているか、またどのようなCLIL要素を使っているかを明らかにしなければならない。分析の対象になったのは、小学校用の理科教科書Macmillan「Science」と「Starter. CLIL Activity book for beginners」である。
Coyle et al. (2010)などが立てたCLIL理論とMehisto (2012)、Ball(2018)などが提案したCLIL教材作成や評価のフレームワークを分析し、理論的に重要とされるCLIL要素のチェックリストを作成した。このチェックリストを使って教材の課題文を評価した結果、理論と実施のギャップや教材による差が明らかになった。なお、「CLIL」表示がないCambridgeの「Science」の教科書と比較して、「CLIL」表示の有無と関係なくCLIL要素を取り入れている教材の存在を指摘した。
氏名:寺尾 和真
所属:明治大学(院生)
題目:英語科デジタル教科書の使用と学習者のモチベーション 〜ARCSモデルの観点から〜
要旨:
昨今、日本の英語教育における情報化が顕著である。また、教室内でのICTの活用が活発化しており、デジタル教科書に特に注目されている。しかし、経済協力開発機構(2018)によると、日本ではICT機器が教室内での学習ではなく、教室外での遊びで使用されている傾向にある。つまり、政策による想定と現実のギャップが生じており、この種のギャップはモチベーションに影響を与える(Choi, 1987; Taris et al, 2006; Kosovich et al., 2017; Desy, 2018; Zaim, 2022)。そこで、英語科デジタル教科書の文脈で、いわゆる理想と現実のギャップの観点から学習者のモチベーションに注目する。理論的枠組みとして、ARCS(Attention・Relevance・Conffidence・Satisfaction)モデルを用いた。ARCSモデルに関する先行研究では、文脈こそ多岐に渡るが、モチベーションや学業成績への影響(Wang, 2013; Kurt & Kecik, 2017; Munawara, 2018; Lumbantobing & Haryanto, 2019)にのみ焦点が当てられてきた。しかし、それらの影響の原因となり得る4側面のバランスの重要性(Lajane et al., 2021)が報告されているにも関わらず、その構造には殆ど焦点が当たっていない。本研究では、英語授業内でのデジタル教科書の使用に着目し、ARCSモデルの4側面の構造が、理想と現実の2パターンでどのように異なるかを明らかにする。1回の授業で4側面に一挙にアプローチすることは困難である為、どの側面から取り組むのがよりモチベーション向上に効果的かを検討する価値がある。また、理想と現実のギャップがどのように生じているかを理解することで、デジタル教科書の長期的活用の一助となる可能性がある。
氏名:藤田守
所属:拓殖大学北海道短期大学
題目:連続する短いCV音節と日本語発話に対する学習者の変化-中国人日本語学習者のコメントから-
要旨:中国人日本語学習者(以下,CNJ)の日本語発話では、発話の基本単位である子音と母音によるCV音節を如何に短くするかが課題となっている。一方、連続する短いCV音節による日本語音声の特徴を理解するため、例えば中国語の“这个”の軽声音節“个”/ge/を日本語の短音節の基準とし、日本語の無意味語/ママママ/を中国語の無意味語“个个个个”に置き換えた対処法を踏まえることで、日本語母語話者に近い適切なCV音節長(msec.)が確認されている。ただし、日本語発話に対する違和感の低減や更なる学習効果の確保のためには、一連の指導を踏まえた展開を事前に示し、音声指導に対して一定の理解を得ることが望ましい。そこで、本研究では、一連の指導に対する印象や発音に伴う変化などを明らかにするため、上述の指導を受けたCNJ 6名を対象に、自由記述によるコメントを整理した。その結果、学習開始当初の違和感は、中国語から日本語へと発話習慣の変化によって生じた可能性が示唆された。その一方で、一連の指導により促された無意味語による内語反復や口慣らしをきっかけに、違和感が徐々に解消して短いCV音節の把握が促され、音節の長短の違いに対する理解が深まることも示唆された。一連の指導の際に、以上の情報を活用することで、連続する短いCV音節による日本語発話への理解が深まり、短音節と長音節の範疇化を促すきっかけとなることも期待される。
氏名:小林由子
所属:北海道大学
題目:国際共修授業における日本語母語話者の日本語使用意識
本発表では、留学生と学部正規学生の国際共修科目「考え方の技術」における日本語母語話者の日本語使用意識について、インタビューにより検討することを目的とする。
授業は日本語で行われるが、受講者の半数は日本語レベルが中級以上の非日本語母語話者である。一方、学部正規学生は、留学生が含まれることもあるが、大多数が日本語母語話者である。授業における学習活動の中心は日本語母語話者と非日本語母語話者が混在する3〜4名のグループワークで、日本語母語話者は、非日本語母語話者を意識しながら母語である日本語を使うことになる。
「考え方の技術」は批判的思考の養成を目的としている。そのため、トピックは具体的であるものの抽象的な事柄について話さなければならず、日本語母語話者は、中級日本語学習者が理解できるように日本語を調整しなければならない。そこで、日本語を母語とする受講者7名に対し、非日本語母語話者と日本語でグループワークを行う際の困難は何か、何を意識しどのような配慮や調整を行っているかについて半構造化インタビューを行った。
その結果、日本語母語話者は、非日本語母語話者とのグループワークにおいて、コミュニケーションに困難を感じることがあり、その際に様々な配慮や調整を行っていることが明らかになった。認識される困難や配慮・調整には個人差が見られた。また、認識される困難や配慮・調整には、それぞれの日本語母語話者の言語観や外国語使用経験など複数の要因が反映されていることが示唆された。
氏名:酒井優子 所属:東海大学
題目:意思決定タスクにおける協働的対話の特徴
要旨:日本の英語教育では,近年,話すこと,特にやり取りのある言語活動が求められている。教師による知識伝達型の受動的な学びから,学習者が「話すこと」を含んだ言語活動に向けて,学習者が課題に対して主体的・協働的に学ぶ協働学習,具体的には,ディスカッション等,他者と対話が図られるような言語活動が推奨されている。本研究では,小グループで意思決定タスクに取り組むときの日本人英語学習者の協働的対話を観察し,タスクの遂行のためにどのような相互行為を構成しているかを調査する。学習者はどのように目標言語である英語と母語である日本語を用いてタスクに取り組むのか,学習者の日本語と英語のトランスランゲ―ジングを観察し,日本語と英語が併用されるときはどのような場合で,相互行為の構築にどのように関わっているのかを考察する。また,その場その場で利用可能なリソースを駆使しながらコミュニケーションを円滑に進める彼らの柔軟な言語使用の観察をもとに,社会文化的アプローチによる第二言語学習者の捉え方について述べる。
氏名:奥貫明子
所属:明治大学(院生)
題目:英語学習エンゲージメントとスクールエンゲージメントの相互作用:中学校の文脈に着目して
生徒や学生にとって、学校、授業、学習活動といった、文脈の各階層におけるエンゲージメント(学習活動への積極的な関与)が、様々なアウトカムに対し重要な役割を果たすことがこれまでの調査で明らかにされてきた(Hiver et al., 2021;Philp & Duchesne, 2016;Skinner & Pitzer, 2012)。しかしながら、学校と英語授業の文脈におけるエンゲージメントの関係性を調べた研究はまだない。本研究では、中学生390人を対象に質問紙調査を実施した。調査に参加した生徒は、英語の授業と学校生活について、行動的、認知的、感情的、社会的といったエンゲージメントの主要な4つの側面を評価するための項目に回答した。分析の結果、学校エンゲージメント(r=0.48~0.71)と英語授業エンゲージメント(r=0.66~0.84)それぞれの各側面間に有意な相関関係があり、学校と英語授業の間にも相関関係が見られた(r=0.38~0.69)。また、学年や学業成績などの要因が生徒のエンゲージメントに影響する可能性も示された。本調査の結果は、中学生の英語授業の文脈におけるエンゲージメントが学校生活へのエンゲージメントと繋がっていること、それらが個々の学習者と各階層の文脈との相互作用によって動的に形成されることを示唆している。つまり、学校生活において生徒の活発な活動を促進することが各教科の授業の活性化に、または各教科の授業で生徒を活発に学ばせることが、学校生活全体の活性化へとつながる可能性がある。
氏名:傅媛媛(フ エンエン)
所属:北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 修士課程
題目:留学生のアルバイト経験が日本語学習動機づけに及ぼす影響:教室外活動の有効性の検討
要旨:近年、国際化が進んでいる中、日本で学習する留学生の生活も多様化している。その中で、留学生の言語学習も教室内だけでなく、社会全体へ向かって発信している。つまり、学習者は、単に教室内で言語知識を教えられる側だけではなく、異文化間交流や社会における相互作用に参加するような存在にもなっている。このような視点から、社会との関わりや社会への参加を目的とした日本語教育の重要性が注目されるようになった(佐藤ら、2011)。そして、第二言語教育の分野では、学習成果と強く関わる学習動機が重要視されている。学生の動機づけをいかに向上させるか、あるいは維持するかは、非常に重要な課題だと考えられる。しかし、これまでの動機づけの研究は教室内活動に注目することが多いが、教室外での活動に関する研究が少ない。本研究は、JSL環境における社会参加として、アルバイトの参加経験と留学生の日本語学習動機づけの関連性を明らかにすることを目的とする。アルバイトに参加する過程で、留学生の日本語学習に対する動機づけにおいて、ぞれぞれの要因がどのような影響を受けるかを因果モデルにより検討したい。本研究は、量的研究を行い、日本語学習の動機づけに影響を及ぼす諸要因に対して、計39項目の質問紙を作成した。これにより、アルバイトの参加をめぐる諸要因と留学生の日本語学習動機づけの関連性を検証し、学習リソースあるいは教室外活動としてのアルバイトの有効性を検討した。
氏名:樫村祐志
所属:明治大学(院生)
題目:教育学における効果量の(不)安定性:二次メタ分析からの示唆
要旨:これまでの教育学では,一次研究の量的研究を統計を用いて統合し,変数間の関係の強さを明らかにするメタ分析が頻繁に行われてきている。それに伴い,同一のテーマに関するメタ分析をさらにメタ分析した「二次メタ分析」が増えつつある。特に,学習成果との関連を調べた800本以上のメタ分析を対象に二次メタ分析を行ったHattie(2009),および2000本以上のメタ分析を対象に二次メタ分析を行ったHattie(2023)が有名である。Hattie(2009, 2023)の結果を比較してみると,全体の効果量はCohen’s d = .40と.42であり,比較的安定していた。しかし,一次研究の本数及びメタ分析の本数が最も増えている学習者要因の効果量を見てみると,d = .40と.23であり,値は大きく減少していた。本研究では,この効果量の値が減少した理由について,4つの観点(出版年,メタ分析の本数,効果量の向きと大きさ,学習者要因として含まれる変数)から考察することを目的とする。さらに,学習者要因の中でも,第二言語習得研究(SLA)で特に注目されてきたmotivationとanxietyの効果量の変動について考察することで,SLAにおける二次メタ分析への示唆を述べる。
氏名:中村姫奈子
所属:明治大学国際日本学研究科(修士院生)
題目:英語の授業内におけるフロー体験
要旨:
フローとは、『限定された刺激領域に注意を集中しており、個人的な問題を忘却し、時間や自分自身の感覚を喪失し、有能感と支配感を持ち、周囲の環境との調和感、合一感を持っている。』(Csikszentmihalyi (著), 今村(訳), 2000, p. 269)という状態である。
これまでの言語学習におけるフロー研究は、フローと学習活動へのエンゲージメントの間に正の相関関係があることを指摘している。また、これらの研究では、フローは学習を促進し、自己肯定感を高める可能性があると仮定している。しかしながら、多くの研究では、英語授業内のフローと日常生活での一般フローとの特徴の違いについて、焦点を当てているものは少ない。そのため、本調査では英語授業内のフローと一般フローの特徴の違いについて明らかにするために、英語授業内におけるフローの特徴について質問紙調査を行った。
本調査の目的は、(1)日本の英語授業内におけるフローについて存在を明らかにすること、(2)この背景におけるフロー体験の特徴について探索することである。
参加者は日本人大学生及び大学院生41名、英語力のレベルは中級~上級である。参加者はEgbert (2003)によるフロー認知質問紙に加え、授業内外における英語学習に対する態度についてGoogle Formを用いて回答した。
結果として、参加者のうちの大多数(41人中39人)が英語の授業内外でフローのような体験をしていたことがわかった。特に、参加者はリーディングとライティングの活動内でよりフローを体験していたことが明らかになった。
氏名:飯田真紀
所属:東京都立大学
題名:言文不一致言語の外国語教育~日本の広東語学習者を例に~
要旨: 中英二言語を公用語とする香港が多層言語社会であることは言を俟たない。ただし、英語の能力は知識層に偏在している。一方で、ほとんどの人の母語である中国語も、口頭言語(「話す、聞く」言葉)と書記言語(「読む、書く」言葉)があたかも2つの別言語のように体系的に異なっており、平均的な香港人は著しい言文不一致状態にある。これは、口頭言語で広東語を用いる一方、書記言語では北京語の語彙・文法を基盤とした書面中国語を規範に用いるためである。
こうした香港の中国語環境の特殊さは、広東語を外国語として学ぶ学習者にも厄介な問題をもたらす。本発表では、香港や海外の学習者が直面する問題を概観した後、日本の学習者に固有の問題を指摘し、解決策を模索する。
氏名:亀本 俊亮
所属:明治大学(院生)
題目:教員、親、クラスメイトによる自律支援が英語学習にもたらす影響
要旨:本研究では、中学生を対象にした2つの調査が行われた。Study1では、教員と親による自律支援(autonomy support)が生徒の英語学習におけるモチベーションにどのような影響を与えるのかを調査した。Study2では、上記に加え、クラスメイトからの自律支援は彼らの英語学習におけるモチベーションとどのような関係性があるのかを調査した。Study1において、親からの自律支援よりも教員からの自律支援のほうが生徒のモチベーションと強く結びついていることが確認された。さらには、教員と親の両方から自律支援を感じている生徒は、その他の生徒(教員か親のどちらかからしか自律支援を受けてもらっていない、またはどちらからもないと感じる生徒)よりも高いモチベーションを示した。Study2では、教員とクラスメイトによる自律支援には強程度の正の相関があることや(3者を比べたときに)親の自律支援が内発的動機づけと最も強く結びついていたことが明らかとなった。本研究は、教員だけでなく、親やクラスメイトのサポートも英語学習を継続させるために必要であることを示唆するものである。
氏名:山上徹
所属:札幌新陽高等学校
題目:高校生英語学習者の理想L2自己の再考
Dörnyei (2005, 2009)は, L2学習を「自己」の動機づけの枠組みに置く新しいアプローチを概念化し, L2動機づけ自己システムを提唱した。この理論では, 理想L2自己, 義務L2自己, L2学習経験という3つの観点から動機づけを捉えており, その中でも「理想L2自己」は特に強力な要素とされている(Ueki & Takeuchi, 2012)。Zentner and Renaud(2007)は, 青年期の理想自己は発達途上のため, 英語を使うイメージを持つこと自体が難しいとしている。そのため,ネイティブ話者を理想としてイメージしていることを前提とするような調査では, 高校生の理想L2自己の実態を明らかにしていくことは難しい。Henry and Thorsen(2018)は, L2動機づけ研究が長期にわたってモノリンガルに偏っていることを指摘しており, Ushioda(2017)も, モノリンガルを念頭に定義された話者ではなく, 多言語話者のトランスリンガル, トランスカルチュラルな能力に焦点を当てるべきであるとしている。そこで本調査では, 高校生がどのような話者を理想としているのか実態を明らかにしていく。
氏名: 鈴木洋海
所属:明治大学(博士前期課程 1年)
題目: EFL環境における動機減退への新たなアプローチ ~原因帰属理論を用いて~
要旨:
教室内の生徒全員が英語学習に対して高い動機づけを持っていれば教師は苦労しないが、実際にそのような状況は少ないだろう。学習者個人の動機づけは一定ではなく、突然高まることもあれば、急激に低下することもある。私の研究では英語学習者の動機づけを高めることに焦点を当てるのではなく、やる気を下げる要因(=動機減退)を探ることを目的とした。
動機減退とは行動の目的や進行中の行為に関連した動機づけを低下・減退させる否定的な影響(Dörnyei & Ushioda, 2021)のことであり、言語学習者に共通した問題だと捉えられる。これまでの先行研究によると動機減退には外的/内的要因が含まれており、特に教師に関わる出来事を中心とした外的要因が大きな影響を与えると考えられている。また、習熟度や個人の動機づけの高低差によって動機減退要因の受け止め方は様々である。このように学習者に影響を与える動機減退要因について言及されているが、特定のみに留まっている研究が多く、同じ条件下でも個人によって差が生じる原因については不明である。そのため、本研究では学習者が持つ動機づけの程度によって動機減退要因が異なるのか、また、どのように原因の帰属が行われているのかを明らかにすることを目的として調査を実施する予定である。
本調査によって、個人で異なる動機減退要因や帰属傾向を明らかにできるため、教師はこの結果を基に個々に応じた指導方法の最適化を図ることに役立つだろう。
氏名:村山 友里枝
所属:北海道大学大学院 メディア・コミュニケーション研究院
題目:北海道方言ラサルの意味の分析―他動性の観点から―
北海道方言の助動詞ラサルには、(1) 非意図(自発)、(2)可能、(3)結果状態(逆使役)の3つの用法があることが指摘されている。
(1) ドを弾こうとしたのにレが弾カサッタ 円山(2007:56)
(2) この靴は小さすぎてハカサラナイ 円山(2007:58)
(3) 大きな丸が書かさってる。 佐々木(2007:259)
本発表では、ラサルの用法のうち、非意図を表す用法と結果状態を表す用法に焦点を当て、Hopper & Thompson(1980)の他動性のパラメータの観点から考察する。
円山(2007)は、日本語の助動詞ラレル、北海道方言の助動詞ラサル、韓国語の助動詞citaの3つの形式について自発・可能用法の対照分析を行い、自発のラレルは他動性の低い動詞に限定されるが、ラサルとcitaは他動性の高低に関する制限を受けないと主張している。しかし、円山(2007)は、他動性―特に被動作性(affectedness、対象への影響)―に関して詳細な分析を行っていない。
本発表では、角田(1991/2009)が原型的他動詞と呼ぶ動詞の中に、ラサル文を作りにくいもの(「殺す」など)があることを指摘し、他動性のパラメータ(意図性、動作主性、被動作性、対象の個別化)の観点からより精密な分析を行う必要があることを主張する。
氏名:金銀珠
所属:北海道情報大学
題目:生涯学習としての韓国語教育の実践―反転授業を導入したブレンド型オンライン授業の試み
要旨:本研究では、韓国語・韓国ドラマに興味のある生涯学習者(入門~基礎レベル)を対象に、反転授業を導入したブレンド型(同期・非同期統合型)オンライン授業を行い、その有効性について考察を行った。事前学習用の資料として、初心者・入門レベルの学習者が文字に慣れてスムーズに授業に参加できるよう、ハングル文字の動画を作成し、YouTubeに限定公開でアップロードした。もう一つの資料として、ドラマ教材(トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜)をもとに音声ファイル付きのパワーポイント資料を作成し、授業前に配付した。また、初心者・入門レベルの学習者でも無理なくグループワークに参加できるようにフリガナ・文法説明付きの資料を別途用意した。Zoomオンライン授業用の資料については、ドラマのシーンを繰り返し練習できるよう工夫を施した。これらの資料を用いてブレンド型オンライン授業を実施した後、最終回の授業でアンケート調査を行った。調査の結果、反転授業を取り入れることにより、中上級レベルの学習者のみならず、初心者・入門レベルの学習者の場合でも、韓国語教育においてドラマ教材の活用が効果的であることが明らかになった。また、事前学習用の動画や資料が非常に役に立ったと評価する学習者が多く、全学習者が次回もオンラインで本授業を開催してほしいと回答していることから、生涯学習としての韓国語教育の実践において反転授業を導入したブレンド型オンライン授業の有効性が示唆された。
氏名:河合靖
所属:北海道大学
題目:多層言語環境社会への適応-トランスランゲージング場面に対する日本人英語学習者の態度
要旨:輸送手段および情報通信技術の発達とともに人と情報の移動が増大し、世界中で多層言語環境が生じてきている。これに合わせて、言語環境ならびに話者人口ともにモノリンガルからバイリンガルへ移行し、そこでの言語使用として、言語間を行き来するトランスランゲージングが増えると予想される。一般的にモノリンガル的言語観では、場の言語種に応じた言語選択が好まれ、求められると考えらえるが、二言語ともに熟達度が高いバイリンガルどうしの会話の場合、一つの言語種に偏らず言語間を行き来する発話が多く観察される。熟達度の高いバイリンガルが増えればこのような言語使用が増え、それに伴いこうした言語選択に対するそれ以外の人たちの評価も変更されることが予想される。本研究では、二言語の熟達度の高い話者どうしの会話の言語選択を考察して分類し、それぞれの分類の言語使用について作成された模擬会話に対する日本人英語学習者の反応を見ることによって、現在の日本でのトランスランゲージング的言語使用に対する評価の傾向を見る。調査では、両言語の熟達度の高いバイリンガルの会話で観察された10分類のうち、7分類について模擬会話例を作成し、日本人英語学習者に理解、違和感、反感について5件法で回答を得た。あわせて、外国人との接触機会、自分の英語使用に対する自信、言語選択に関するビリーフについても調査した。
氏名:佐野愛子
所属:立命館大学
題目:トランスリンガル・アイデンティティ・テキスト[実践報告]
要旨:CLD(文化的・言語的に多様な)子どもたちの「ことばの教育」では、子どもたちのもつ多様な言語資源の豊かさ、素晴らしさを子どもたち自身に気づいてもらう取り組みが重要となる。そうした取り組みのひとつとして、García ら(2017)は複数の言語を自在に活用して書く作家の作品(=トランスリンガルな文学;佐野2023)を読みながら、作家の言語選択について考察する教育実践を紹介している。ただ、日本国内でそうした教育実践を行おうとした場合、日本語学習者であるCLDの児童生徒に読める程度の易しさで書かれ、かつ、生徒たちの多様な母語を反映したトランスリンガルな文学作品を見つけるのは極めて困難である。そこで本実践では、Cummins(2011)で提案されたIdentity Textと呼ばれる活動を参考に、子どもたち自身に自らのアイデンティティに関わる作品を書いてもらうことを目指す。日本を代表するトランスリンガル文学作家・温又柔氏の協力を得て、様々な国につながる大学生・社会人に自らの言語資源を最大限に投影した作品を書いてもらい、今後の教育実践において作品例として児童生徒に読んでもらうテクストとする予定である。当日の発表では、ワークショップの参加者の作品とともに、その実践に対する参加者の声を紹介したい。
氏名:中津川雅宣
所属:札幌国際大学
Title: How is globalization experienced in the countryside? -An Examination of English Education in Rural Hokkaido-
Abstract: The influence of neoliberal globalization on the English language has been a subject of extensive debate worldwide (Heller, 2003; Jeon, 2012). In Japan, especially in the wake of the economic surge during the 1980s, the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) has enacted many policies aimed at aligning with the imperatives of globalization. Chief among these initiatives is perhaps the Japan Exchange and Teaching (JET) Programme, which has been a symbol of government-enabled “globalization” since its inception in 1987. This study sought to investigate the nature of this globalization within low-population rural areas of Hokkaido, through the perspectives of JET participants. To accomplish this, a critical ethnographic examination was conducted, with in-depth interviews of two JET participants actively engaged in English instruction in local municipalities with populations of approximately 5,000 residents. By examining the ways in which these JET participants perceive and interact with their local community, this research contemplates the notion of globalization within the context of multilingualism. In so doing it elucidates the current landscape of English education at local secondary level in Hokkaido and offers implications for the future of English teaching in comparable local areas. JET participants conveyed that while they are committed to fulfilling their role as globalization agents through English teaching, they grapple with a need for assimilation into the local environment. It is only through these dynamic interactions within the local and global spheres, with continuous reappropriation of participant identities, that the formation of an “authentic” globalization is realized in the region.