「多層言語環境における第二言語話者像―トランスランゲージング志向の会話方略」申請書(4)

応募者の研究遂行能力及び研究環境

本研究では,研究代表者河合が本科研研究を統括し,専用ウェブサイトを設立して研究グ ループの連絡と成果の公開を行う.各分担者の専門分野に沿って以下の役割分担を行う.横 山・酒井:会話データの談話分析.飯田:分析結果の言語理論的考察.山田:データ収集及 び評価データのビリーフの視点からの分析.杉江:評価データ収集と質的分析.佐野:調査 結果のバイリガル研究・translanguagingの視点からの考察.

(1)これまでの研究活動

河合,横山,飯田,杉江,山田,佐野は,2015~2017科研:基 盤研究 (B) (一般)「東アジア圏の複言語主義共同体の構築―多 言語社会香港からの示唆」(課題番号15H03221)の共同研究者で あった.札幌や香港で年1,2回国際シンポジウムを開催.研究 成果報告書 (2017) は冊子体のほか科研ウェブサイトで閲覧できる. (http://translanguaging.sakura.ne.jp/hkp48/?p=714)後続の科研申請が不 採択だったが,研究は継続し,2018年度も国際シンポジウムを実施 する.(http://translanguaging.sakura.ne.jp/hkp48/?cat=12)

河合と横山はJACETで理事 (支部長),Selected Papers編集長等を 経験し,佐野,酒井とCCR (Classroom-Centered Research) 研究会で 共同研究を行った.1990年代のJACET研究会活動開始時に北海道支 部の西堀・森永・高井元支部長らが設立した研究会で,2000年以降 我々がタスクを対象に研究した.業績は,河合・平田・新井・横 山・大場 (2002) 「アクションリサーチのためのタスク分析」Hokkaido JACET Journal (1), 4354, Shimura, A., Sano, A., Sakai, Y., Yokoyama, Y., & Kawai, Y. (2015). Combining MOLT to COLT schemes in assessing instructional events, Research Bulletin of English Teaching (12), 1-25. 等.

河合靖は,アラバマ大学でRebecca Oxfordに師事してM.A., Ph.D.を取得し,英語学習の学 習者要因や自律学習を主な研究分野としてきた.著書にGriffiths, C. (Ed.), (2008). Lessons from good language learners, Cambridge University Press (共著), 小嶋・尾関・廣森 (編著), (2010)『成 長する英語学習者』大修館書店 (共著) 等がある.Griffiths. C.他8名 (Kawai, Y.は3番目著 者)(2014), Focus on context: Narratives from East Asia, System (43), 50-63.(共著) では,東アジア 圏の英語教育者のナラティブをグラウンデッド・セオリー・アプローチで分析して共通の特 徴を抽出している.東アジア圏に興味を向け多層言語環境研究を構想する契機になった.

横山吉樹は,アリゾナ大学で修士取得後,北海道大学で英語学習者のコード・スイッチン グを談話分析した博士論文で博士を取得.Yokoyama, Y., (2014). Language learners’ codeswitching strategies in English as a foreign language, 金星堂.として出版されている.教室内の英 語活動が研究対象で,論文は, Egusa, C., & Yokoyama, Y. (2004), The effects of task types on second language speech production among Japanese university students: Fluency, accuracy, complexity, and trade-off effects, ARELE (15), 129-138など多数.また,教室内英語使用への興 味から,横山 (2013)「カナダと香港のイマージョンプログラムを比較して」『小学校外国語 活動と小中連携の理論と実践』152-157 があり,その後の多層言語環境研究へと続いている.

飯田真紀は,広東語の文末助詞の談話機能を研究対象とする言語学者である.東京外国語 大学で修士,東京大学で博士を取得した後,北海道大学の所属となり,広東語,台湾語,日 本語の対照分析を行う研究で数多くの科研費採択を得て研究を続け業績を重ねている.最新 の論文に,Iida, M., (2018) Sentence final particles in Cantonese and Japanese from a cross-linguistic perspective,『メディア・コミュニケーション研究』71, 65-93.,近刊の著書に,飯田 (2019予 定)『言語横断的視点から見た広東語の文末助詞』ひつじ書房がある.また,広東語入門の 業績も多く,飯田 (2010)「ニューエクスプレス 広東語」白水社の出版,NHKテレビ「アジ ア語楽紀行~旅する広東語~」(2006)日本放送協会の番組監修をしている.

山田智久は,ロンドン大学でM.A.を取得.北海道大学でPAC分析を用いたビリーフの研究 で博士を取得.論文に,山田(2014)「教師のビリーフの変化要因についての考察 : 二名の日 本語教師へのPAC分析調査結果の比較から」日本語教育 (157), 32-46.等がある.北海道大学 新渡戸カレッジ担当を兼任しており,留学生と日本人学生が協学する多文化交流授業を担当. 会話データの研究対象者はこの授業参加者を予定している.ビリーフ研究者としての顔のほ か,ICTの専門家としても著名で,著書に山田 (2017)「ICTの活用 第2版 (日本語教師のため のTIPS 77)」くろしお出版がある.

杉江聡子は北海道大学で遠隔交流を織り込んだインストラクショナルデザインの研究によ り修士,博士を取得した.ICTを活用した中国語教育を専門としており,近年は多層言語環 境社会の進展に対応できる観光人材育成をテーマにしている.質的研究法の高度化にも興味 を持ち,論文に,杉江(2016)「日本と中国の遠隔交流が創出する質的価値の探究」『中国語 教育』(15), 105-123., 杉江・三ツ木(2015)「遠隔交流が創出する学びの経験とその価値 : 中国 語学習における異文化体験の質的分析」『e-Learning教育研究』(10), 1-13.等がある.

研究協力者(採択後分担者に変更)・酒井優子, 佐野愛子は,ともに博士課程院生として博士論文を執筆中である. 酒井は南イリノイ大学でSLAの分野でM.A.を取得後,日本にもどって高校教員をしながら日 本人高校生英語学習者のコード・スイッチングを談話分析してきた.現在は東海大学(札幌 キャンパス)勤務.論文に,Sakai, Y., (2017). The Use of L1 as a Positive Language Resource: As an Aid to Develop Critical Thinking Skills, 『東海大学国際文化学部紀要』9, 17-28.等がある.佐 野はトロント大学でJim Cummins, Nina Spadaらのもとでバイリンガル研究を学び,中島和子 の指導によりバイリンガル児童のライティング研究でM.A.を取得.日本にもどって高校教員 をしながら研究活動を続け,現在は北海道文教大学(その後札幌国際大学に転出)に職を得て日本人英語学習者の translanguagingによる事前準備活動の効果を研究テーマとしている.論文は,Sano, A (2018). The effects of translanguaging in discussion as a pre-writing activity for writing in a second language, ARELE, 29. 193-208.等多数.横山,河合は年齢が高く,5年間の研究期間内に退職する可能性 があるが,研究協力者2名がいるので,すみやかな研究分担者の補充が可能である.

(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)

前述の通り,本研究に必要な主な研究施設・設備・研究資料は,これまでの多層言語環境 研究により蓄積されてきているので,データ収集に関わるハンディカムやICレコーダの追 加・更新など,必要なものはわずかである.新規の設備としては刺激ビデオ作製に関わる撮 影・編集機器が必要であるが,撮影用のブルーバックはアクティブ・ラーニング室に設置さ れ転用が可能であるし,国際シンポジウムに必要な同時通訳機器は既存の設備が使用できる. 本科研の採択後,既存の施設・設備を主に用いてすぐに研究を開始できる状況にある.

人権の保護及び法令等の遵守への対応

本研究で得られる個人情報については,研究目的以外では使用しない.資料の保管には万 全を期すとともに,成果公開終了後1年をもって資料を破棄する.資料の収集に際しては, 情報提供者から参加同意書を得る.同意が得られない場合は,該当者の資料は分析に用いな い.また,同意書が得られている場合でも,資料収集後3か月以内に同意撤回の意思表示が あった場合は,分析の対象からはずす.また,研究成果の発表に際しては,個人が特定され ることがないように細心の注意を払う.

本研究ではビデオカメラで会話データの収集を行うので,その管理には十分な注意を払い, 映像が研究目的以外で使われたり,研究組織以外に流出したりしないように細心の注意を払 う。成果発表では,基本的に会話データの音声や映像は用いない。不可避の必要性が生じた 場合には,個人が特定されないように処理を行って使用する。

本研究においては,生命倫理・安全対策に対する取り組みを必要とする危険な作業を伴わ ないが,刺激ビデオの撮影に関しては安全を確保できる演出をするように心がける。会話デ ータ,評価データはすべて国内(北海道大学内)で収集するので,注意を払うべき外国の法令 や指針はないが,研究参加者が外国人の場合に文化的差異に留意して,誤解の生じないよう に十分な説明を心掛ける。

以上について,調査前に北海道大学メディア・コ ミュニケーション研究院の申し合わせ に照らし合わせて慎重に検討し,必要に応じて審査を受け,承認手続きをとる.